「町の本屋という物語 定有堂書店の43年」
奈良敏行著 三砂慶明編 作品社(2024年発行)
「本を読むのが好きだから、本屋を始めた」という著者 奈良俊之氏の言葉に魅かれました。
何かを始める時、多くの人は、その仕事が好きだから始めることが多いと思いますが、しかし、それが永く続くとは限りません。ビジネスとすると、競争があり、素人が好きだから始めるという世界ではないからです。
しかし、奈良敏行氏は、小さな「町の本屋」を43年間続けてきました。
それができたのは、何故なのか?非常に興味深いものがありました。
彼は「本を読む人」をターゲットに「人文書」を店に並べていました。
「何が売れるか」「いかに売るか」ではなく、顧客が欲している読書の質(ニーズ)にあわせて、選書し、顧客との繋がりを重視しているのです。
本屋を開いた場所は、鳥取市です。県庁所在地であり、大学、高校、市役所、中央官庁支局や金融関係支店、新聞社支局などが軒を並べている県央の市です。
「町の本屋」どころか、大型書店が数店舗あります。読書人口もそれなりにある大都市です。
彼は、顧客との繋がりを非常に大事にしています。ミニコミ誌の発行、読書会、書評誌、ただこれらは、奈良氏個人が書くのではなく、顧客が書くのです。顧客同志の繋がりが生まれ、口コミでいろいろな人が出入りする場になっていくのでした。
彼は、それを「身の丈にあった」「小さな商い」「スモール イズ ビューテイフル」と言います。
奈良氏は、顧客とともに、同業者も大事にし、先輩としていろいろ学んでいます。
彼と同じ「町の本屋さん」はもちろん、出版社、書籍取次店、大型書店などの人々との付き合いも大事にし、様々な情報を得ています。それは、何が売れるかというより、人々が今なにを求めているかを学んでいるのです。
さて、このようにまとめてしまうと、これは、熊本市や福岡市のような大都市では成り立っても、菊池のような田舎の市で成り立つだろうか?半数近い市町村で、本屋がひとつもないというなかでは、通用しない話しではないかという疑問が生じます。
しかし、視点を少し変えてみてはどうでしょう。
田舎には、田舎ならではの人間関係があり、利益ではなく、好きなことに軸足を置いてみたら、何か新しい世界が開けないでしょうか?
奈良氏のように好きなことをして、生計が成り立つなら、もちろん結構なことですが、私たちは、そこまでできなくとも、私たちの生活が心豊かになるなら、それが一番ではないか?また、身の回りにそのような生き方を追求する人がいれば、応援したいという気持ちです。
熊本市内には、田尻久子さんの「橙書店」があります。小宮楠緒さん(父上は「トルストイ」の翻訳者(故)北御門二郎氏)の子どもの本の店「竹とんぼ」(阿蘇 西原村)があります。もちろん小さな「町の本屋さん」です。
菊池にも、最近「木編Books」という間借り本屋さんが、旧マスザキ電気店跡に誕生しました。
菊池には、独立書店として、老舗の「三木誠文堂」があります。教科書販売をメインとする「大塚書店」もあります。菊池市立図書館との連携はどうなっているのでしょうか?
図書館友の会としても、ぜひ応援したいと思います。
投稿 井藤和俊
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