蘇れ!菊池の戦後の歌人たち
目録編集委員会 坂本敏正
麦馬車の上に積む子が眠らむと
するを励まし励まし帰る 『麥馬車』 竹野美智代 詠
白炎の如くし雪は降るものか
夫に見せむとひとひらを受く 『カタルパの花』山田とし子 詠
自負失せし心あやふく保つとき
切り絵のごとき白き月みゆ 『青野の虹』 佐々木かつえ 詠
塵の身とおもへど額に灰十字
記されし初の四旬節来ぬ 『四旬節』 荒木みよ子 詠
阿修羅なす世のさまとても見尽くせり
引揚の日日よ夢にも還るな 『桐むらさき』 萩尾春海 詠
菊池市には、戦後間もなく「菊池短歌会」が立ち上げられ、多くの歌人が生まれました。菊池市中央図書館には、30数冊もの彼らの自費出版の歌集が納められています。
平成の大合併でも、人口5万人足らずの農村地域の菊池市に、かくも多くの歌人が生まれ、自費出版の歌集が出版されたことは、恐らく全国的にも稀有の例でしょう。
その歌は、上記で紹介された歌で明らかなように、戦後の農村の主婦や中国大陸や朝鮮半島から命からがら引き揚げた婦人、病に冒された人々の心の叫びです。
花鳥風月、自然を詠っている歌も、その背後には、戦中戦後の苦しい生活とそのなかでも深い家族への愛、夫婦愛が詠み込まれています。
戦後の混乱期に、菊池のような田舎にこのような歌人集団が生まれたその背景は?
菊池短歌会の黎明期の指導者には、ハンセン病患者や囚人に短歌を教える医者内田守人氏、宮崎在住の若山牧水の直弟子黒木傳松氏、菊池短歌会合同歌集『鞠智』編集者石坂 清氏、農耕歌人と称された郷 松樹氏、高校教師の渡辺憲吉氏、また中央歌壇に属さない安永信一郎、安永蕗子親子がいました。
中央歌壇になびかない個性的な歌人たちに指導された菊池の農民や主婦や教師たちが、「菊池短歌会」の担い手となり、菊池市教育委員会の「高齢者大学文芸部」の指導者、運営者となり、菊池全体の短歌界の底上げにつながったものと思われます。
菊池在住の農婦であり、菊池短歌界創設以来の歌人竹野美智代氏は、黒木傳松氏の直弟子です。
傳松の師があるからにためらはず
農に嫁ぎし吾なりしかな 竹野美智代 詠
竹野美智代氏は、山田とし子氏、佐々木かつえ氏らと共に、菊池短歌会を地元で支え、多くの歌人を育て、歌集の出版を助けています。その成果が30数冊もの自費出版の歌集です。
私たち「菊池市図書館友の会」は、このような貴重な歌集を、図書館の書架に眠らせておくことはできないと考え、この度、「目録『菊池の戦後の歌人たち』」を編集しました。
目録は、各歌人の歌4~5首を取り上げ、作者のプロフイール、作歌歴、跋や序、あとがきなどを紹介しています。4月中には印刷を終え、遅くとも5月には、目録の報告会ができると思います。
菊池在住の方々は、祖父母、親戚、知人の作品を目にすることができます。
私達「菊池市図書館友の会」は、ぜひ菊池の歌人の歌をあらためて皆さんに届けてゆきたいと思います。
文責 井藤和俊
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