菊池市立泗水中学校発・「世界平和への願い」
毎年6月23日は沖縄県が制定している慰霊の日であり、8月15日は終戦記念日である。私達は21世紀の世で、まさか大国ロシアによるウクライナへの侵略戦争が勃発するなど思ってもいなかったし、毎日報道される悲惨な戦争の惨禍に心を痛めている。こんな世界情勢の中で、太平洋戦争の末期に特攻機の中継基地があった菊池市の泗水中学校の生徒による「世界平和への願い」を込めた活動に心を動かされ、岩谷 寛 教頭先生に話を伺った。
2020年当時学年主任であった岩谷先生は、自分で足を運んだ鹿児島「知覧特攻基地」で感じ取った実態と「特攻機の中継基地であった旧陸軍菊池飛行場」の関係者の証言などから「ホタル帰る」という脚本を書き上げられた。「ホタル帰る」は、知覧町にあった「富屋食堂」を切り盛りする鳥浜トメと、出撃を控えた隊員との交流を描いた実話をもとにしたものである。
演劇は、2020年10月25日に泗水中学校で行われた学習発表会において発表された。熊日新聞の当時の記事によれば、孔子公園で老人が「菊池で整備した特攻機が知覧に飛んで行ったんじゃ」と少年に話し掛ける現代シーンから幕が開けた。そして終盤の20歳の宮川三郎軍曹がホタルになって食堂に舞い戻るシーンでは、会場の生徒や保護者が目頭を押さえて見入ったということである。岩谷先生は、泗水中の近くには菊池飛行場ミュージアムもあって、知覧とも密接な関係があることから、自分たちの故郷について知ってもらうことも教師の使命だと思い、演劇を指導したということであった。
さらに同校では、2021年に当時2年生の有志が菊池飛行場の空襲を題材に「身代わりになった戦友」という紙芝居を作成した。紙芝居は同飛行場の元少年兵であった方の空襲時の体験を、生徒達が聞き取ってまとめ、戦友の最後や遺体を焼く場面などの惨劇を画用紙22枚に描いている。紙芝居の朗読は、その年の学習発表会にて全校生徒の前で初披露されたが、それ以降も紙芝居作りに協力した市民団体によって泗水公民館で発表会が開催されたり、校区内の小学校へ出向いて朗読発表する等、若い世代の取り組みが多くの市民から共感を得ている。
同校ではこのような取り組みが確実に受け継がれており、2023年には当時の2年生が「童顔の特攻隊」という題名の紙芝居を完成させた。この紙芝居は、終戦の年、出撃前の特攻隊員2人と菊池飛行場近くで遭遇し、軍刀と手帳を実家に送ってほしいと頼まれた女性の体験を基に制作されたものである。画用紙に描かれた15枚の絵には、生徒達の平和や命の尊さに対するそれぞれの思いが込められている。紙芝居は学年集会で初披露され、5月には市民向けの発表会が開催された。他市町村からの反響もあり、バレエ団体からのオファーによる発表会へも参加した。さらに8月には県の「戦争を語り継ぐ会」に、思いをつなぐ子どもたちの活動として参加予定である
紙芝居「童顔の特攻隊」は、菊池圏域電子図書館や動画投稿サイト「ユーチューブ」でも公開されている。そのため熊日新聞の記事によると、アメリカの戦史研究家が空襲当時の米軍機の行動を調べるなどの反響があるということである。現代は、最初は小さな発信であっても、その発信が共感を生み、世界中に拡散する時代である。泗水中学校の生徒諸君の「戦争の記憶を受け継ぎ、世界平和を願う」この活動が、戦争のない平和な時代への道標となることに期待したい。(文責:村田 達郎)
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