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[2022年09月号] 本の広場「図書館を考える」


新版 図書館の発見 前川恒雄・石川 敦 著

「市民の図書館」へ

 戦前は、国(治安当局)による書籍購入の規制(天皇制批判・マルクス主義・自由主義的書籍の排除)、図書貸出調査(貸し出し履歴による利用者の思想調査)が行われ、図書館は国民の思想善導(天皇制礼讃・忠君愛国)の場とされていました。

 戦後、その反省にたって、「図書館の自由に関する宣言」(昭和29年)が採択され、

資料収集の自由、資料提供の自由、利用者の秘密厳守、検閲拒否を宣言しました。

 しかし、戦後日本はまだ貧しい時代で、図書館の予算も人員も設備も貧弱で、 戦後の 1960年代までの図書館は、受験生の勉強部屋であり、利用者は調べものをする知識階層に限られていました。市民が自由に本を借りて、読む場所ではありませんでした。

 1970年代に高度成長で自治体の予算が潤沢になり、図書館が建設されるようになるとともに、市民が自由に利用できる図書館「市民の図書館」(昭和45年)を求める声がおおきくなり、子どもたちも自由に出入りできる今のような図書館になりました。

新たな課題の登場

 しかし、1990年代に入り、自治体予算が厳しくなると、図書館の予算人員が削減され、業務委託化、司書の非正規雇用が進みました。図書の購入要望、貸し出し利用は膨らむものの、図書館の受け入れ態勢が弱体化してゆくのです。

 1980年から2000年にかけて、図書館が新築され、大きな図書館が、都市部でも、町村でも建設されてゆきますが、図書館業務の外部委託が始まります。

また、コンピューターの利用が普及し、司書不要論や貸し出しサービス批判(無料貸本屋)が出てくるようになりました。

 2000年代、「官から民へ」の掛け声とともに、国は地方自治法を改正し「指定管理者制度」(平成15年)を設けました。

 指定管理者制度は、図書館経費と人件費削減を目的にする自治体首長や議会からは歓迎されています。佐賀県唐津図書館は全国から首長・議会の視察が相次ぎました。

 その実、自治体と指定管理者との契約は、できるだけ低く抑えられ、市民の要望を聞き入れる余地のないものになっています。専門家である司書の図書館サービスの新たな企画もま、契約外として受け入れられないことになります。

 司書の身分も、不安定で、図書館に対する愛着、使命感が育つ余裕もありません。

他方、自治体の直営であっても、行政側にしっかりした図書館の理念、使命、政策 司書育成の人事方針がなければ、図書館の魅力は低減するばかりです。

 そして、今やインターネット利用が日常化し、多種多様なメデイアの登場に、若い世代、勤労世代の読書・図書館離れが進んでいます。

AI導入による司書不要論とか、電子図書が普及すれば、図書館は不要だとかの主張が聞かれるようになりました。

課題解決型図書館の登場

そのような情勢のもとで、今新たな図書館の在り方の展望として取り上げられてきているのが「課題解決型図書館」です。地域の活性化、町おこしのための、図書館の役割が求められているのです。

 ただし、課題解決型図書館に発展するには、今現在それだけの力量が、図書館、自治体に備わっているわけではありません。

 「市民の図書館」として、長年、知識教養・貸出重視の図書館として運営されてきた経過があって、図書館、行政側に課題解決型図書館に育てるという認識が未成熟であり、かつ地域もまた、そのような課題解決を図書館に期待していたわけでもありませんでした。

しかし、今後の情勢を考えれば、課題解決型の図書館という在り方についても、今後の展望のひとつとして、考えてゆくことが求められているように思われます。


「つながる図書館」       猪谷千華 著 ちくま新書

今図書館が直面している変革期に、いくつかの図書館の先進的な試みがあります。表記の「つながる図書館」で紹介された事例を、順不同で意訳して紹介します。    

  指定管理者型図書館

 指定管理者制度は、図書館の経費、人件費を削減したい首長や議会から歓迎され、なかでも、佐賀県武雄市の「武雄図書館」は、TUTAYA系のC.C.C(カルチユア

コンビニエンス・クラブ)が管理者となり、蔦屋書店とカフェチエーン「スターバックス」が同居する商業施設として、エンタテイメントとして、強力な集客力を発揮し、全国の注目をあつめました。

 今全国的に「指定管理者」に切り替える動きが顕在化していますが、それにも、功罪があります。

 図書館が、指定管理者の事業に提携し、エンタテイメントとして、集客力を発揮し、地域の活性化を図ることは、素晴らしいことです。しかし、その反面いくつか難点があります。指定管理者は契約年数に縛られて、長期的な事業計画が建てにくいこと、自治体と指定管理者の契約・予算に縛られて、働く司書や市民の意見が通らないこと、自治体が、図書館の理念、使命、政策を軽視して、指定管理者に図書館運営を丸投げしてしまうこと。このような事態を防ぐには、行政や議会にも意見が言える図書館を愛する市民グループの存在不可欠です。

 住民参加型図書館

 その武雄図書館と対照的な図書館、それは同じ佐賀県の伊万里市民図書館です。市民と行政が数年かけて、どんな図書館を作るか、学習し、議論を重ねて建設した文字通り市民の図書館「伊万里市民図書館」です。

 長野県小布施町の「まちとしょテラソ」もまた、行政と市民、公募で選ばれた館長(花井祐一郎 映像作家・演出家)が、住民との対話を重ねて、作り上げた図書館です。

 島をまるごと図書館にしてしまった町があります。島根県海土町(人口2400人)です。平成の大合併でも、自立の道を選び、島外からの移住者の定住を促し、図書館がなかった海土町で、まず、学校から、次には、島内各所に図書スペースを設け、ネットワークで本の貸出ができるようにしたのです。国から注目され、離島、林業関係事業予算が付いて、図書館が建設されました。今図書館は島民の憩いの場になっています。

 課題解決型図書館

 図書館を「無料貸本屋」と揶揄する声があります。その批判を乗り越える図書館の在り方として「課題解決型図書館」という方向性が示されています。

 2000年に設立された「ビジネス支援図書館協議会」では、ビジネス支援サービスに必要なスキルを身に付けるための「ビジネスライブラリアン講習会」を定期的に開催し、人材育成に努めています。

鳥取県立図書館の例では、ビジネス支援担当司書が、マーケテイング調査資料をデータベースから作成し、相談事案に関係する金融、技術等の情報を提供し、人脈をつなぎ、相談企業をサポートしています。

伊万里市民図書館では、開発者(石川慶蔵氏)が、図書館の毎月50点もの本や雑誌、ビデオを利用して、研究を重ね、世界初の磁器製万華鏡「有田焼万華鏡」の作成に成功しています。

 知識情報収集型図書館

 東京都千代田区の千代田図書館は、丸の内、霞が関、大手町、昼間の人口82万人の中に位置しています。周囲には、図書館も密集しています。国会図書館はじめ、数々の大学図書館があります。

千代田図書館の利用者は、周囲の企業のビジネスパーソンです。彼らは昼間からインターネットを通じて、図書館のもつ全世界の情報にアクセスして、仕事をしているのです。必要な情報は、図書館のコンシエルジュが、資料探しの手伝いをします。

資料が無ければ館外にアクセスして探してくれるという徹底したサービスです。

指定管理者ですが、成功例として、高く評価されています。

 知識教養・貸出重視型図書館 (筆者の私見)

 今最も多いのは、「知識教養・貸出重視型図書館」でしょう。司書たちが、児童母親の読み聞かせや、七夕、クリスマスなどの催しを続け乍ら、行政からの援助も乏しいいなか、「市民の図書館」をしっかり守っているのです。

課題は、図書館利用者をいかにして増やすかです。図書館から地域へ出かけることが必要なのです。それは、司書だけでは限界があります。行政の支援が必要です。

ともすれば行政や議会からお荷物扱いされかねない図書館ですが、地域の知と情報の拠点であり、公民館とともに、生涯学習の交流拠点です。求められるのは、地域の市民のバックアップです。それが行政を動かし議会を動かし、図書館を地域に不可欠な財産に作り上げてゆくのです。





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