寄稿 「いのちをつなぐ」 高濱伸一
編集部から
高濱伸一さんは、教頭の時、大学入学間もない長男怜志さんを、交通事故で亡くしました。その事故の真相と家族と共に過ごした日々を「怜志ありがとう 再会を信じて」と本にしました。
本を出した翌年(2010年)「食道がん」のため、校長を自ら退職し、以後がん患者との交流をとおして、「ガンサロン」を立ち上げました。「喉頭がん」に侵され、言葉を失いましたが、引き続きがん患者の支援を続けています。この暮らしの日々を「いのちをつなぐー交通事故の息子と共に歩んだ十七年―」として、出版(2021年)されました。
著書は菊池市図書館に寄贈されていますので、誰でも読むことができます。
(ホームページ8月号に詳細掲載)
いのちをつなぐ 高濱伸一
「いのちをつなぐ」のは、言葉だと思います。
私が自費出版した「いのちをつなぐ」という本では、命を助けるとか、子どもを育てるとかいう意味で使っていません。人と人がどう助け合い励まし合って生きていくのか、というテーマで書いています。人と人が心を通わせるためには言葉が必要です。亡くなっていく人の気持ちや思いも言葉でつないでいくしかありません。
2004年、私の19歳の息子は交通事故で亡くなりました。息子が確かに生きていた証を残し、自分自身が悲嘆から立ち直るために、2007年「怜志ありがとう」を自費出版しました。私は、言葉によって自分自身を表現し客観的に振り返ることができたので、生まれ変わった気持ちでがんばることができるようになりました。
ところが、私は2009年に食道がんの手術を受け、2013年にはがん再発のため放射線治療を受け、今度は自分自身の命と向き合うことになりました。2019年には咽頭がんの手術で声帯も切除し声が出せなくなりました。2ヶ月に及ぶ入院生活の中で、自らの最期を覚悟した私は、息子のことだけでなく、がんで亡くなっていった方々のいのちもつないでいきたいと思いました。言葉にしなければ、いのちをつなぐことはできませんので、自費出版を決めました。
私は、小説家でも学者でもありません。感動的で価値ある本を書けるはずはありません。でも、感動しました、涙が出ました、などの感想をいただくことがあります。それは、私の本を手にとってくれた読者自身が自らの人生を振り返ることから生まれてくる感動だと思います。私たちは勇気をもって自らの体験を語ることによって、体験や人生の喜怒哀楽を共有することができます。そこから、お互い理解し合い、助け合う心情が生まれてくるのです。
自費出版には費用や手間がかかりますが、自分の思いを言葉にすることで、不思議なことにとても安らかな気持ちになりました。「いのちをつなぐ」ためには、言葉の力が必要です。読むこと、聞くこと、話すこと、書くことの言葉の力によって、時間と空間を超えて、私たちのいのちをつないでいきたいものです。
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