~ナスの花は、なぜ下向きに咲くのか?~
東海大学 教授 村田 達郎
近年は、いろいろな野菜が年中食べられるので、旬という言葉を聞く機会が少なくなりましたが、季節的には夏野菜の旬を迎えています。その代表選手であるナスの原産地は、インド東部と考えられており、日本への渡来は、東大寺正倉院文書(750年)にナスの記載があることから、なんと飛鳥・奈良時代とされています。 このようにナスは、1200年以上も前から栽培されている非常になじみ深い野菜の一つですが、じっくりとナスの花を見たことがありますか?「ナスの花は上向きに咲くのか、下向きに咲くのか?」と聞かれると、多くの人からは何となく「下向きに咲く」という答えが聞こえてきそうです。 それでは、なぜナスの花は下向きに咲くのでしょうか。その答えは、花の構造にあります。多くの植物はめしべとおしべが同じような長さなのですが、ナスはめしべがおしべより長い花(長花柱花)の構造をしています(写真)。ナスが下向きに咲くのは、めしべの先端である柱頭に効率よく花粉がつくためであり、効率よく子孫を残すための植物の知恵には驚嘆します。親の意見の大事さを諭したことわざである「親の意見とナスの花は、千に一つも無駄はない」の中にも、ナスの花の知恵が詠まれています。
ナスは「成す」と当て字で書くことができ、「何事も成し遂げる」に繋がるとされ、縁起が良いと言われています。コロナ禍で閉塞感が漂い、頭を下げてしまうような気持になりますが、猛暑の中、下向きに咲くナスの知恵を思い出しながら、今経験していることがアフターコロナの世界できっと役立つことになると信じて、この夏を乗り切りたいものです。
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