本の広場
「孤高・異端の日本画家
田中一村の世界」
元菊池市地域おこし協力隊 橋本眞也
亜熱帯の海岸に怪しげな雲が太陽の光を遮り、エキゾチックな植物の枝先にアダンの実が成る情景が描きだされています。
田中一村の絵画「アダンの木」です。
生業としては染色工として貧困の極みの中で奄美に散った異端の画家、田中一村の名作絵画です。
驚くことにこれが日本画。
生涯画壇で報われることなく終わった異端の画家を、彼がなくなって後にたまたま知ったNHKのデイレクターが「日曜美術館」で取り上げて、この作家は丗に出ました。
それから10年後に孤高の作家田中一村の画業を紹介すべく、NHKが展覧会を開催し、それを記念して出版されたのが、この画集「孤高・異端の日本画家 田中一村の世界」です。
生涯にわたる一村の画業の軌跡を紹介し、人となりを伝える写真、生涯年譜などの諸資料も併せて紹介されています。
美術評論家や文芸誌の主宰者、大学教授などが賛辞に近い論評を加えています。
若き日、天才と目されながら画壇に背を向け、誰からも顧みられることなく、天の目に対峙する自分の画業だけを見つめて生ききった男の軌跡。
図書館の片隅でこの本を紐解き、己の選んだ道に誠実に生きることの凄絶さに向き合う午後も、また一興ではないでしょうか。
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