おすすめの本 山野 由紀
「ほしじいたけ ほしばあたけ」 石川基子 作
私がこの本と出会ったのは、まったくの偶然です。だいたい私が本を選ぶのは、ランドリーで洗濯物が乾くまでの待ち時間。ふらりと入った本屋さんで、ぼやっと絵本コーナーを見ていたら、ほしじいたけ・ほしばあたけの文字、驚いて手に取りました。
私は普通のOLから、椎茸農家に嫁いで三十数年になります。椎茸生産者なので、椎茸という文字には、他の人より敏感です。他の農家の方々も同じだと思いますが、自分の作った作物を子ども達や消費者に知ってもらうために、色々と活動していますが、これがなかなかうまく行きません。
この本では、干し椎茸のじいちゃんとばあちゃんが、水につかって若さを取り戻し、小さなキノコ達を助けたりします。斬新です。思いもしなかった展開です。それに椎茸をPRしようとか栄養を伝えようとか、そんな欲もなく、何か主張をするような作品ではありません。
そうか、こんな手があったんだ。と欲の皮がつっぱった私は思いました。生産者はどうしても作物について知りすぎている。栄養とか料理法とか、そんな事ばかり教えたがって自滅してしまうのです。子ども達がもとめている物は、これなんだ。こんな風に、椎茸の事を好きになってほしかったんだと思いました。
若返った椎茸達も、風に吹かれ太陽に当たって、また干し椎茸のじいちゃん・ばあちゃんに戻り、ゆっくり穏やかな暮らしを続けます。ああ、私もこんな風に出来たらいいなあ。いい年の取り方をしたいなあ、ちょっと優しい気持ちになれる作品でした。こんなステキな作品を書いてくれてありがとう!! と会った事もない石川さんにお礼を言いたい私です。
(編集部注)
「ほしじいたけ ほしばあたけ」は第36回講談社絵本新人賞 受賞
作者 石川基子の作品 「じめじめ谷でききいっぱつ」「カエンタケにごようじん」
「いざせんにんやまへ」など多数
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